顎関節円板が位置的異常をきたした顎関節内障は、その進行に伴い円板の位置異常ばかりでなく、形態の異常を伴うことが多いと言われている。しかし本症における関節円板の病態は未だ十分に明らかにされていない。そこで顎関節内障患者における関節円板病態を顎関節腔造影エックス線撮影法ならびに顎関節腔鏡視法を用いて観察するとともに、それら所見と顎関節内障手術時所見および手術時切除標本の病理組織学的所見と比較検討することにより顎関節内障患者特有の関節円板病態を解明する。そこで顎関節腔造影エックス線検査を行ったところ、円板の位置ならびに動態異常67.9%、復位を伴わない前方転位69.8%、復位を伴う前方転位25.7%、協調失調3.6%および復位を伴う後方転位0.9%であった。さらに造影検査をエックス線CT装置にて行ったところ関節円板の抽出、位置および形態が容易に判定できた。なお術前の造影エックス線検査と術中所見との一致率は92%であった。ついで造影検査時に撮影した同部矢状断同時多層断層エックス線写真の連続断面像を3次元処理し、円板変形が圧縮、重積(重畳)、捻転およびそれらの複合に分類できた。また造影検査と前後して上関節腔内に顎関節鏡を挿入し病変を観察した結果、復位を伴わない円板前方転位症例では後方腔の滑膜うっ血および発赤などの炎症性変化と関節結節部滑膜のフィブリレ-ションおよび前方腔における前縁部や内側壁部の線維性癒着所見などの病変の存在が多くみられ、腔の狭小化がみられた。さらに関節円板後方肥厚部における膠原線維配列の乱れないし硝子様変性および類軟骨細胞の増加などが認められ、完全前方ないし内方に転位した長期間経過した症例における切除円板の病理組織学的観察において関節円板に軟骨細胞の集積ばかりでなく軟骨内骨化がみられた。完全前(内)方転位をきたしてから長期間経過した症例についての外科的治療法の必要性を支持するものと考えられた。
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