虚血になると心筋は酸素不足に陥って、心筋収縮に必要なエネルギ-はもちろん、心筋細胞の構造維持や基礎代謝に必要なエネルギ-も不足してくる。イヌ心臓の冠動脈を結紮して作製した虚血心筋モデルにおいても、冠動脈結紮初期から組織ATP、クレアチン燐酸含量が低下し、心筋のエネルギ-状態を示すエネルギ-・チャ-ジ・ポテンシャルも減少した。虚血が30分間続くと心筋のエネルギ-状態は非常に悪くなっていた。このような時期に、心臓リンパ液を採取して、その二次元電気泳動パタ-ンを調べると、冠動脈結紮前には認められなかった小さな蛋白質のスポットがたくさん検出された。また、二次元電気泳動パタ-ン上でクレアチンキナ-ゼと思われるスポットがSDSゲル電気泳動上で上下に広がりを見せ、虚血によってクレアチンキナ-ゼが崩壊し、分子量の異なるいくつかの断片に分かれたことが示唆された。以上の結果は、虚血になると心筋細胞内のエネルギ-不足によって、心筋構造を維持できなくなり、細胞構成蛋白質や、機能蛋白質(例えばクレアチンキナ-ゼ)が崩壊して心臓リンパ液中へ排出されることを示している。鼠径部のリンパ管からもリンパ液を採取し、心臓リンパ液の二次元電気泳動パタ-ンと比較した。冠動脈を結紮する前の正常状態では、鼠径部リンパ液の二次元電気泳動パタ-ン上のクレアチンキナ-ゼのスポットはいくつかのアイソマ-に分かれたが分子量的にはほとんど同一の蛋白質であったのに対し、心臓リンパ節では分子量の異なるクレアチンキナ-ゼの断片が既に認められた。興味あることに、冠動脈結紮によって鼠径部リンパ液でも小さな蛋白質断片のスポットが多数認められた。心臓リンパ液にでてくる崩壊蛋白質におよぼす抗狭心症薬の作用については今後の問題として残された。
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