研究概要 |
不整脈の薬物療法においては治療効果に著しい個体差がしばしば認められ臨床上大きな問題とされている. 本研究では, このような個体差を生ずる原因として心機能に影響を及ぼす可能性のある各種病態に着目し, 病態時における抗不整脈剤の体内動態と作用部位における濃度と効果の関係につい系統的な検討を加えるが, 初年度において以下の成果を得た. 1.抗不整脈剤アジマリンを正常ビーグル犬に45分間精脈内定速注入し, 薬物投与開始後約8時間まで経時的に採血と心電図記録を行った. アジマリンの投与による心電図上のPQおよびQRS間隔が延長し, 投与終了時に最大の延長効得が認められた. これらの心電図変化はアジマリンの血漿中濃度よりも血漿中非結合型濃度とより良好な相関を示した. そこで, 血漿中の非結合型薬物が単純拡散による仮想的な作用部位コンパートメントに移行しラングミュア形吸着式に従い心電図変化を引き起こすというモデルを構築した. 本モデルにより, アジマリンの体内動態ならびに蛋白結合に関する変動を分離した形で各個体の薬理反応性を評価することが可能となり, 解析結果に基づく心電図の経時変化のシュミレーションは実測値と良好な対応を示した. 2.ラットの冠動脈結紮による生ずる虚血性不整脈に対し, アジマリンは結紮前後の投与時間に依存せず同程度の抗不整脈効果を示した. 一方, 冠結紮15分後に結紮を解くことにより生ずる再灌流性不整脈に対しては, アジマリンを冠結紮前に投した方ゐ, 結紮直後に投与した場合に比し優れた抗不整脈効果を示した. 冠結紮前にアジマリンを投与した場合の心筋虚血部の薬物濃度は結紮直後投与に比し10倍以上の高値を示し, 一方正常心筋中の薬物濃度については両群間で差は認められなかった. これらの結果は, 抗不整脈作用を評価する上で, 不整脈の種類, 薬物投与のタイミングおよび心臓の局所薬物濃度の重要性を示唆するものである.
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