胃切除患者の摂食状況を食欲と味覚の面から調査、検討した。研究対象は鳥取大学医学部附属病院第一外科で取り扱われた胃切除術後の患者計64症例である。前述患者64例の内、48例については食事ごとの摂食量を点検し、これを1日分の摂取カロリー値に換算して摂食量の調査に当てた。さらに食事との関連の強い術後愁訴についても調査、抽出したこれら症例の疾患と治療の内訳に関しては、8例の胃潰瘍中、1例を除いて他は胃部分切除であった。残り40例はすべて悪性であり、1例以外は胃癌で、17例は胃部分切除、23例が胃全摘であった。なお化学療法施行群25例、非施行群は15例であった。同様に、前述患者64例の残り46例はすべて胃癌で、胃部分切除11例、胃全摘は5例となっていた。化学療法は胃部分切除の2例と胃全摘2例に施行した。この16症例につき術前と術後、あるいは化学療法施行前後の味覚、すなわち甘味(庶糖)、塩味(食塩)、酸味(塩酸)、苦味(塩酸キニーネ)の4基本味についての変化を検査した。同検査には味質ごとに、6段階の濃度枠(mol/l)を設定し、I段階の低濃度からVI段階の高濃度味質に向って、約20mlの味質試薬を口腔内に含み味を識別する全口腔法を採用した検査を実施した。胃良性疾患における術後の摂取カロリー値は胃悪性疾患に比較して、経日的に増大した。胃全摘例の中で摂取カロリー値が増大したのは化学療法非施行例の場合であり、施行例との間に有意差が存在した。食欲不振に関連する愁訴として胃部分切除例では停滞感、胃全摘例では腹満であった。手術や化学療法後に、4味覚中1味以上に感覚異常をきたしたもの93.8%に達した。これらの味覚変化の内、甘味は閾値の下降、酸味と苦味では閾値上昇が認められた。4味覚中甘味の変動幅がとくに大きく、特徴的であることなどから、亜鉛の欠乏による味蕾細胞内での甘味受容蛋白質代謝の障害が強く示唆された。
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