本年度は胃切除患者のうち、手術前後に味覚検査が可能であった症例をさらに増やし、39名として検討した。その結果、術式や化学療法の如何を問わず術後の味覚変化の中で、顕著な差異が出現したのは甘味閾値の下降(感受性鋭化)であった。その他苦味閾値の下降も認められた。年齢別に検討すると、総体的に高齢者の味覚変化は若・中年層患者よりも大きく、とくに甘味閾値の低下が顕著であった。塩味に関しては、若年層では閾値の上昇(感受性鈍化)、高齢者では下降が認められた。酸味については、若年者は下降、高齢者では上昇と逆に反応している傾向が存在した。苦味については年齢との間に明確な反応傾向を見出さなかった。 上記症例中より病巣進行度、術式、治癒度、化学療法、摂食量のそれぞれ異なる事例を選び、患者の摂取した食事量から、その患者の栄養充足率を求め、個別的な食事援助のあり方について検討した。事例はいずれも胃癌で、事例Aは早期癌、胃切除(絶対治癒手術)が施行され、摂食量は順調に増大した。Bでは進行癌のため亜全摘(相対非治癒手術)と化学療法が施行されており、摂食量は半減し、熱量充足率は60%前後となっている。Cは進行癌で全摘(絶対非治癒手術)と化学療法、温熱療法が併用施行されており、顕著な食欲不振と摂食量低下がみられる。熱量充足率の平均は10%前後で静脈栄養により管理されている。患者の栄養充足率は献立表と病床日誌から摂食状況を把握し、これを四訂食品標準成分表を用いて、コンピュ-タ・システムで算出した。Aでは熱量と6種食品群(魚・肉・卵群、緑黄色野菜群、糖質群、油脂群、乳類、果実群)に問題はなく、Bでは緑黄色野菜群が目立った。Cは全ての面で低下しており、静脈栄養によって一時的に血清蛋白量が上昇した期間中は摂食量、熱量充足量にも軽度の改善が認められ、栄養状態と食欲との間に密接な関連が存在することが示唆された。
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