脳内での神経伝達やその調節の因子として作用すると考えられている神経ペプチドの分解をつかさどるプロテアーゼの性格を明らかにする目的で前年度に引き続き3種の神経ペプチド、P物質、LHRH、ダイノルフィンの分解に関与する脳内ブロテアーゼの精製と特徴づけを進めた。 1.先にラット脳から精製したP物質分解酵素が、ホスホラミドン非感受性の新しい形のメタロプロテアーゼであることを明らかにした。P物質の分解に関する本精製酵素の諸性質(阻害剤感受性や切断部位等)は、ニューロブラストーマ細胞や脳初代培養細胞から得たニューロンに富む細胞群によるP物質分解の際、観察された諸性質とよく一致していた。他方、グリオーマ細胞や脳初代培養細胞から得たグリアに富む細胞群による分解には、それとは異なる酵素、エンドペプチダーゼ-24.11が関与することを示し、実際この酵素をグリオーマ細胞から精製して証明した。以上の結果から、ニューロンでのP物質の分解には本研究で発見した酵素がグリアでの分解にはエンドペプチダーゼ-24.11が、それぞれ主要な役割をはたすと結論した。 2.前年度ニューロブラストーマ細胞膜およびラットシナプス膜から精製したSHブロッカー感受性メタロプロテアーゼの性質を解析し、これがLHRH分解の初発反応(フラグメント1-5生成反応)を司る酵素であることを明らかにした。 3.ニューロブラストーマ細胞において、ダイノルフィン分解の主役を果たすと想定されるシステインプロテアーゼ2種と、脇役を演じると想定されるトリプシン様酵素1種との精製・特徴づけに関する仕事を更に進めた。これら3種の精製酵素によるダイノルフィンの切断部位は、ニューロブラストーマ細胞自体をダイノルフィンに作用させた実験からの推定切断部位とよく一致し、上の想定の正しさが確認された。
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