ウサギとマウスの胸腺は他の臓器には見られない組織特異的糖脂質組成を示すが、この組織特異的糖脂質は主として皮質の胸腺細胞に分布していることを明らかにした。皮質の胸腺細胞は骨髄由来と考えられるがこの糖脂質は骨髄には全く検出できず、骨髄由来細胞が胸腺に到達して後合成されたものと思われる。ウサギ胸腺細胞ではIV^3NeuGcnLc_4CerとVI^3NeuGcnLc_6Cer、マウスではIV^3NAGg_5CerとIV^3NAGg_6Cerが臓器特異的糖脂質であった。コレラ菌ノイラミニダーゼ処理によりウサギでは_nLc_6Cerが、マウスではGg_6Cerが5倍以上の増加を示し、またいずれの糖脂質もガラクトースオキシダーゼに感受性であった。ノイラミニダーゼ処理胸腺細胞はそれぞれの動物の腹腔マクロファージや脾B細胞の作用でインターロイキン2を産生した。ノイラミニダーゼ処理を行っていないとインターロイキン2の産生は見られない。また、この作用は上記胸腺特異的ガングリオシドをノイラミニダーゼ処理した糖脂質を埋め込んだリポソームによって阻止されることから、この糖脂質こそが刺激受容分子として機能していることが明らかになった。一方、皮質細胞の大部分はステロイド感受性であるため、胸腺からステロイド感受性細胞を除く目的でステロイドを投与したところ、上記マーカー糖脂質の選択的減少と同時に、GM3の約2倍の増加が観察された。この増加したガングリオシドは胸腺マトリックス細胞に分布していることが明らかになったことから、胸腺細胞がマトリックス細胞から遊離する機序に関係があると思われる。その際の代謝を調べる目的でManNACとCMP-NewAcを前駆体にしてGM3の合成を調べたところ、ManNACからの合成はステロイド処理前後で全く差が見られず、CMP-NeuAcからの合成はステロイド処理前後で全く差が見られず、CMP-NeuAcからの合成はステロイド処理胸腺にのみ観察されたことから、GM3の合成能力は形質膜に発現していることが予想された。
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