研究概要 |
イノシトールリン脂質代謝を介する細胞膜受容伝達機構が種々の外界シグナルの作用に関与していることはよく知られている. また,この機構では受容体と共役してホスホリパーゼCが活性化され,イノシトールリン脂質が加水分解を受けて,ジグリセリドとイノシトール三リン酸の2つの細胞内伝達物質が産出されることはすでに確立している. しかし,受容体によるホスホリパーゼCの制御機構の物質的基盤はなお得られていない. 本年度の本年究では,まずラット大脳におけるホスホリパーゼCの細胞内分布を解析し,次にシナプス膜から本酵素を分部精製してその性状を可溶性画分の本酵素と比較した. その結果,本酵素活性は可溶性画分に大部分認められたが,全活性の約1/5は膜画分に認められ,膜画分の酵素活性の大部分はシナプス膜に結合していた. 部分精製した膜結合型ホスホリパーゼCは従来よく解析されている可溶型の酵素とその酵素学的性状や物理的性状がきわめて類似していた. 受容体と共役しているホスホリパーゼCは可溶型よりも膜結合型の酵素である可能性が強く,現在,膜結合型酵素の精製をさらに進めている. また,本研究で私共は,ある種の受容体とホスホリパーゼCとの共役に百日咳毒素感受性のGTP結合蛋白質(G蛋白質)が関与していること,またCキナーゼは受容体とG蛋白質およびG蛋白質とホスホリパーゼCとの共役を阻害し, これがこの種の受容体の脱感作機構になっていることを解明した. さらに, 本研究過程で,ウシ大脳膜画分に分子量2.0ー2.5万の新しい種類のG蛋白質が10種類以上存在していることを見出し,そのうちの5種類をすでに均一蛋白質にまで精製した. これらの低分子量G蛋白質はある種の受容体とホスホリパーゼCとの共役に関与している可能性があり,現在検討中である.
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