研究概要 |
無脊椎動物の中でもカブトガニの血球細胞は感染菌表層物質のリボ多糖(内毒素)や(1→3)ーβーグルカンによって活性化され、血リンパ凝固を引き起こす。我々は、リポ多糖によって惹起こされる血球細胞の活性化→脱顆粒→体液凝固→殺菌物質の生成→異物排除など、一連の反応を生化学的に解析し、体液凝固に関与する新しい因子のC因子、B因子、G因子、抗リポ多糖因子(殺菌性物質)、タキプレシン、ポリフェムシン(殺菌性ペプチド)を見い出し、凝固カスケード機構の存在を明らかにしてきた。 また、最近、凝固カスケード系の開始反応に関与するリポ多糖感受性プロテアーゼチモーゲン(C因子)のcDNAクローン化とその塩基配列を決定した。その結果、C因子は哺乳類補体因子のClrやClsなどと極めて類似したポリペプチド鎖構成をもつことが明らかとなった。すなわち、分子量123,000(993アミノ酸残基)の1本鎖から成るC因子のNH_2ー末端領域には、EGF(上皮細胞増殖因子)ドメインのほか、数多くの補体系因子やβ_2ーGlycoprotein Iなどで知られている約60残基のくり返し構造が5個見い出された。従来から無脊椎動物の体液凝固は、止血だけでなく、感染防御の役割を果していることが示唆されてきたが、C因子の構造解析により無脊椎動物での補体因子の存在が初めて実証された。 一方、異物処理を担う血球因子としては、抗リポ多糖因子及びCOOH末端にαーアミドを含む強塩基性のタキプレシンペプチド類が見い出された。いずれもリポ多糖の生物活性を中和するほか、強い抗菌作用を示し、前者はグラム陰性菌に、後者はグラム陰性とグラム陽性菌の両方に対してポリミキシンに匹敵する増殖阻止活性をもつことがわかった。
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