研究概要 |
ATPの分解と共役してH^+,Na^+,K^+,Ca^<2+>を輸送する各種のイオン輸送性ATPaseが知られている. これら酵素のATP結合部位,ATPの分解とイオン輸送性の共役機構,イオンの輸送路等,未知の点が多い. 本研究に於ては, H^+輸送性ATPaseおよびH^+/K^+輸送性ATPaseに注目している. 昭和62年度には,以下の点が明らかとなった. 1.大腸菌H^+輸送性ATPase(F.ナ_<0.ニ>F.ナ_<1.ニ>)の変異株を多数分離し,解析した. また,サブユニット遺伝子に部位特異的に変異を導入した. その結果,βサブユニットのAlaー151残基がATP結合部位にあること,αサブユニットのArgー376,Serー373残基が活性中心間の協同性に関与していること,βサブユニットのGluー185がサブユニット間相互作用に関与していること,εサブユニットのカルボキシ末端側60残基は不要であること,等を明らかにした. 2.H^+輸送性ATPase(F.ナ_<0.ニ>F.ナ_<1.ニ>)にadenosine triphosphopyridoxalが1分子結合し,活性を阻害した. その結合部位はβサブユニットのLysー155であった. 3.H^+輸送性ATPaseのβサブユニットとH^+/K^+輸送性ATPaseの間に,約15残基の相同部分がある. 後者では,この中のAsp残基がリン酸化される中間体を経て反応が進行する. H^+輸送性ATPaseでは,この残基はThrー285に対応する. そこでThrー285をAspに変換したところ,反応定数が大きく変化した. したがってThrー285は,H^+輸送性ATPaseにとって重要であると結論した. 4.H^+/K^+輸送性ATPaseのcDNAをブタより,遺伝子をヒトよりクローン化した. 現在,これらの全塩基配列を決定中である. また,このATPaseの機能残基を系統的に探索しており,既にピリドキサール・リン酸によって特異的に修飾されるリジン残基が存在することを明らかにした. このリジン残基はおそらく活性中心にあると考えている.
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