ATP分解と共役し、イオンを輸送するATPaseが各種知られている。本研究に於てはH^+ーATPase(F_oF_1)とH^+/K^+ATPaseに注目し研究を進めている。前者は主に大腸菌および葉緑体のものを、後者はブタおよびヒトの胃壁細胞のものを解析した。いずれもATP結合部位、ATP分解とイオン輸送の共役機構を明らかにすることを究極の目的とした。 H^+ーATPase(F_oF_1)は5種のサブユニットよりなるF_1と3種のサブユニットよりなるFoから形成されている。本年度はβサブユニットに存在する活性中心を形成していると考えられるアミノ酸残基に、変異を導入した。その結果Gly-Gly-Ala-Gly-Val-Gly-Lys-Ihr(149ー156残基)がループを形成しており、その中でLysー155の近くにATPのγ位のリン酸基があることを示した。さらにAlaー151→VaL、Alaー151→pro、およびGly残基をGlyー154とLysー155の間に挿入し、構造の変化と活性の変化を解析した。その結果ループ構造を変化させると(Alaー151→ValおよびGlyの挿入)、ATPaseの活性は著しく減少した。これらおよび昨年度の結果を合わせて、H^+ーATPaseの活性中心モデルを提出した。 H^+/K^+ATPaseのcDNA(ブタ)及び遺伝子DNA(ヒト)をクローン化し、塩基配列を決定した。他のイオン輸送ATPaseとの相同性疎水性残基の分布、2次構造の推定等からイオン輸送路を推定した。また同時に行った化学修飾の結果を考慮し、活性中心の構造を推定した。さらにcDNAよりH^+/K^+ATPaseを発現させる系を確立した。すなわち部位特異的に本酵素に変異を導入する基礎が確立した。 以上、反応機構の異なる2つのイオン輸送ATPaseの活性中心、イオン輸送路について多くの知見が得られた。
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