研究概要 |
ATPの分解と共役し、H^+,Na^+,K^+,Ca^<2+>等を輸送する各種のイオン輸送ATPaseが知られている。 これらATPaseのATP結合部位(活性中心)、ATPの分解(合成)とイオン輸送の共役機構、イオン輸送路と機能等、未知の点が多い。本研究に於いてはH^+ATPase(F_1F_0)(主に大腸菌細胞膜のもの)および胃壁細胞(ブタおよびヒト)のH^+/K^+ATPaseに注目した。 H^+ATPaseはαβγδεの5種のサブユニットよりなるF_1部分とa,b,cサブユニットよりなるF_0部分から形成されている。このATPaseは逆反応によって生体に必要なATPの大半を合成していることが知られている。本酵素の変異株を系統的に分離し、また部位特異的に変異を導入し、ATP結奈部位とH^+輸送路について詳しい解析を行なった。その結果、ATP結合部位はβサブユニットの149ー156残基およびThr-285残基の近傍にあることが明らかとなった。Lys-155残基はATPのγ位のリン酸基の近くに存在した。またγサブユニットのGln-269〜Thrー277が活性に重要であること、εサブユニットのカルボキシル末端側半分は不要であること、F_0部分のaサブユニットのカルボキシル末端側20残基の間にH^+輸送に関与するアミノ酸残基が存在すること等を明らかにした。さらにF_0部分の形成にはbサブユニット、その中でも特にカルボキシル末端の2残基が重要であることを示した。この2残基がないとF_0は形成されない。H^+/K^+ATPaseのcDNA(ブタ)及び遺伝子DNA(ヒト)をクローン化し、塩基配列を決定した。H^+/K^+ATPaseの一次構造は他のイオン輸送ATPaseを極めて相同性が高かった。また、Lys-497にピリドキサール・リン酸が1分子結合する事、この残基が活性中心の一部を形成していることを示した。本酵素の活性中心部分の構造及びイオン輸送路部分を推定した。
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