研究概要 |
低エネルギー中性子:京都大学原子炉実験所原子炉重水照射設備より得られる熱中性子ならびに,熱中性子を^<235>Uエネルギーコンバーターに当てることによって得られるウラン核分裂中性子をヒトの末梢血に照射し, リンパ球に形成される染色体異常の解析からエネルギー付与機構の違いによる形成機構を分析した. 熱中性子の傷害作用の主体をなす^1H(n,γ)^2Hおよび^<14>N(n,p)^<14>C反応からγ線の寄与を除いた0.59MeV陽子のRBE(生物学的比効果)は硬X線に対して約32となる. 核分裂中性子の平均エネルギーは約2MeVであるが, 染色体異常形成効率はバンデクラフによる9Be(d,n)^<10>B反応の単色2MeV中性子の約2.5倍であり, 核分裂中性子に存在する低エネルギー中性子が高いRBEを持つことを示唆する. 核分裂中性子をマウス培養細胞m5Sに照射し, 6ーチオグアニン耐性突然変異を調べた. 高い突然変異率を示し, X線(50KVp)の場合の約4倍であった. 核分裂スペクトル中性子および^<14>N(n,p)^<14>C反応による0.59MeV陽子のRBEは単色2MeV中性子の場合による高いことから, クロマチン構造から規定される効率の頂値は1MeV以下にあることが推論された. 低エネルギーX線:シンクロトロン放射より得られる単色の低エネルギーX線をヒトのリンパ球に照射し, 染色体異常の形成効率を調べた. 染色体異常形成効率はX線のエネルギーの低下と共に上昇するが,約7keVで頂値を示し, さらに低エネルギーでは逆に低下する. この現象は, 交換型育常形成は2個の損傷の相互作用により,そのターゲットはDNA分子でなく直径30nmのクロマチン基本線維であって, 細胞核内におけるその相構の距離間革と光電子の飛程がRBEの頂値を決めていることを示している. また, この結果は1個の障害の形成に2個の一次傷が関係するという"Theory of dual radiation action"を支持するものである.
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