昨年度の研究成果の概要でも述べたように、本年度は主としてトランスポゾンによる宿主遺伝子の発現調節機構に関する研究を行い、以下に示すような多くの重要な知見を得た。そしてこれらの結果、レトロトランスポゾンは、癌化におけるレトロウィルスの働きと同じような働きをし、形態形成遺伝子を活性化させ、奇形を引き起こす事が証明された。I.tomtaggingにより得られた0m遺伝子座の一つ0m(1D)locusのゲノムDNAおよびcDNAの構造を調べ、0m(1D)locusにホメオボックスを持った新しい形態形成遺伝子(0m遺伝子)が存在している事を見つけた。2.0m遺伝子の3非翻訳領域には、トム挿入のホットスポットがあり、ここにトムが挿入すると、そのエンハンサー作用により隣接した0m遺伝子が活性化され、複眼奇形が生じる。3.0m遺伝子の活性化の程度は、挿入したトランスポゾン、トムのコピー数に比例し、0m変異の発現点は、発現量に応じ眼の成虫原基の尾部側に移行する。4.染色体上には0m(1D)locusで見いだされたホメオボックスとよく似た配列を持った遺伝子(Bar-modoki)がもう一つ存在している。5.アナナスショウジョウバエの0m(1D)locusは、キイロショウジョウバエでは、Bar locusに対応し、Barの変異株では、重複している。Bar変異の表現型は0m(1D)変異とほとんど同じである。6.キイロショウジョウバエのBar遺伝子も単離し、ホメオボックスを同定した。60アミノ酸のうち59個がアナナスショウジョウバエと同じであった。7.Bar遺伝子及び0m(1D)遺伝子は、3つのCODING EXONを持っており、それぞれ542、603アミノ酸からなるポリペプチドをコードしている。8.0m(1D)及びBar遺伝子のloss of functionは、Kinked femurである。今後に残される重要な課題は、残りの24か所の0m遺伝子座を単離し、そこでのトムと0m遺伝子との相互作用を調べる事であろう。
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