研究概要 |
ラットの総頚動脈を一側性に5分間結紮し不完全虚血を作り, 同側の大脳皮質および海馬の単一ニューロンの自発性発火頻度の変化を検索した. 結紮間始前には, 大脳皮質および海馬のニューロンの最大発火頻度は0ー3Hzであったが, 結紮中,約88%のニューロンにおいて最大発火頻度は5ー11Hzとなり,発火頻度の増大が観察された. 血流再開後5ー20分の時間経過ののち,約60%のニューロンにおいて発火頻度は結紮前のレベルにもづったが, 残り約40%のニューロンでは, 観察期間中(30ー150分), 発火頻度は増大したまま回復しなかった. 以上の結果は, 中枢ニューロンが虚血に対し発火頻度の増大という型で反応すること, 虚血時間が短かければ回復しうることを示している. しかし発火頻度の増大はエネルギー貯蔵量の急速の低下をもたらし, 更には非可逆的な細胞死につながることは疑いのない事実であり, この異常発火の発現機構の解明は緊急の課題である. 雑種成犬をケタミン導入, フローセンにて維持麻酔下に左総頚動脈にポリエチレンチューブバイパスを装着せしめ, チューブを氷中に滲浸してポンプ圧にて低温脳循環を行った. 脳温が約20%まで低下するのに約60分を要し, その時の直腸温は28℃を下らなかった. 脳温約20℃のとき, 脳血流量は常体温時の約30%, 酸素消費量, ブドー糖消費量は約20%であった. 血液がス, pH, 中心静脈圧などには異常はなかったが, 徐脈, 平担脳波, 血液粘度の上昇(1.7〜3倍)がみられ, これら異常所見は脳温が常温にもどるに従い回復した. 低温脳循環は虚血によって進行するニューロン死に対する有効な予防法と考えられ, 今後血液粘度の上昇を抑性する方法の開発などが望まれる. また咽頭部冷却など, 非観血的, 非侵襲的方法の検討も必要である. 低温時中枢ニューロンの動態解析を電気生理的並びに生化学, 薬理学的手法で総合的に行う重要性が指摘される.
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