従前よりの研究及び62年度の研究によりウ蝕象牙質の超微細構造とウ蝕検知液による染色性の関係がほぼ解明された。即ち、ウ蝕による侵襲により象牙質は軟化し微小な空隙が基質中に生じ、且つ象牙細管も内容物を消失し、この疎な部分に色素液が侵入して発色するが、この際切剤によって生じたスメアー層がこの色素の侵入を妨げ、ウ蝕侵襲の程度の強弱による象牙質の脱灰軟化の度合と関係しながら色素染色の程度が低下することが明らかとなった。よってこれらの知見をふまえて、まず従来のウ蝕検知液を改良するために、溶媒の検討を行なったところ、種々の溶媒の中でジメチルスルフオオキシド(DMSO)が最もウ蝕象牙質内への侵透性が良好であることが明らかとなった。そこでこの溶媒を用いて1%のアシッドレッド検知液を試作し、溶媒としてのDMSOの至適濃度を検討したところ10%が選択された。次いで色素のウ蝕象牙質中への侵透を妨げる因子であるスメアー層を除去するために、この試作検知液に低濃度のクエン酸を添加し、正常象牙質及びエナメル質に侵襲を与えず、ウ蝕象牙質のスメアー層除去効果が最大であるようなクエン酸の至適濃度と選択した。その結果、このクエン酸の濃度は10%であることが明らかとなった。また、この検知液を用いて臨床成性を従来のものと比較したところ、浅いもの、中等度のもの、深いウ蝕のいずれに於いても検知回数が半減した。更に染色性も、着色した慢性ウ蝕においても、あざやかな赤色に着色することが明らかとなった。よってほぼ所期の目的どおり新しい処方のウ蝕検知液は完成された。
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