1.ブタ大脳より精製したムスカリン受容体(主としてm1サブタイプ)は、蛋白質キナーゼCによってリン酸化され、受容体1分子あたり約5分子のリン酸が入った。ところがブタ心房より精製した受容体(m2サブタイプ)は蛋白質キナーゼCによってリン酸化されなかった。この結果は3種の異なる蛋白質キナーゼCを用いても変わらなかった。一方、心房ムスカリン受容体はcAMP依存性蛋白質キナーゼによってリン酸化された。大脳受容体もcAMP依存性蛋白質キナーゼによってリン酸化されたが、蛋白質キナーゼCによるリン酸化に比べその程度は少なかった。G蛋白質(Gi、Go、Gn)のβサブユニットがcAMP依存性蛋白質キナーゼによってリン酸化された。cAMP依存性蛋白質キナーゼによるムスカリン受容体とG蛋白質のリン酸化は、両者のIn vitroでの相互作用に影響しなかった。βアドレナリン受容体キナーゼによるムスカリン受容体リン酸化の試みは成功しなかった。64年度に継続して研究すると共に、ロドプシンキナーゼによるリン酸化、ムスカリン受容体特異的キナーゼの存在する可能性についても検討する。培養細胞を用いてのリン酸化は63年度に研究を開始したが、主要な研究計画は平成元年度に継続する。 2.ムスカリン受容体m1及びm2サブタイプの部分ペプチドに対する抗体を調製した。それを用いて、受容体のリガント結合部位及びリン酸化部位の同定を試みた。不可逆的標識化合物PrBCMの結合部位はN末から数えて2番目から4番目までの細胞膜貫通部位にあること、蛋白質キナーゼCによってリン酸化される部位の大部分はC末と細胞内ループIIIのC末側1/3の間にあること、細胞膜の外側にS-S結合があること(2番目と3番目のループの間)などが推測された。このS-S結合は受容体のリガントに対する親和性に影響することが示唆された。
|