研究概要 |
神経系の高次機能は、シナプスの伝達効率の可塑的変化によって獲得されると考えられている。この考えを、人間が生後、訓練によって運動の熟達する過定にあてはめ、その神経回路モデルに焦点をあてて研究を進めてきた。随意運動は、(1)運動の目標の設定(2)作業空間での目標軌道の決定(3)身体空間での目標の決,定(4)目標実現に必要なトルクの計算(5)運動の制御の五つの段階に分けて考えることが出来る。 今年度は(2)と(4)の過程に関連して、トルク変化最小という基準での最適軌道を生成する神経回路モデルの研究を行った。 神経回路は4層構造をなしている。まず、この神経回路のなかに制御対象の順システムを形成する。そのためには、制御対象と神経回路の両方に適当な訓練用の運動指令(トルク)を共通に与え、それぞれの出力を比較する。その差が0になるように神経回路内のシナプスの結合係数を誤差逆伝播学習則によって修正する。その結果、順システムの内部モデルが出来あがる。次に、このようにして形成された内部モデルを使って最適軌道を生成する。そのために、第1層からの入力と制御対象からの出力は完全に遮断する。その代わりに、出力層の最下端の細胞の出力と最終目標位置とを比較し、その差を第2層の細胞列の入力として与える。また、第2層の細胞間には電気的結合を与える。その結果、細胞間には互いの出力の差が最小になるような相互作用が働く。第2層の出力はトルクであり、これはトルク変化を最小にすることに相当する。神経回路全体としての働きを解析すると、トルク変化を最小にしながら、最終的には、目標点に手先をもっていくような運動指令生成できることがわかる。なお、時間の刻み毎に神経回路を用意する繰り返し構造の神経回路モデルによって、運動系のダイナミクスのベクトル場を学習させることにも成功している。
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