研究課題
一般研究(B)
本研究の目的は現代世界における移民労働者の実態について、政治学、社会学、経済学、歴史学の各専門分野からの分析を通じて総合的に解明することにある。本研究の研究分担者は、研究の対象地域も学問分野も様々であり、本研究ではその多様性を収斂させることなく、事実に即して多様性を認識することに力点を置いた。本研究の成果として、移民労働者の問題が以下の3点において旧来の視点や認識の枠組に対し根本的な問い直しを迫るものであることが明らかにされた。1.「移民労働者の問題は現代世界における『国民国家』の虚構を露呈する上で大きな役割を演じている。」今日の移民労働者現象の増大は、両欧諸国に定住する外国人の数がふえるのみならず、彼らが同化を拒否することで本来進みつつあった「一民族一国家」神話の危機を一層深刻化させている。2.「移民労働者あるいは労働力の移動が世界の構造をつくりあげてきた。」移民は歴史的にもそれぞれの社会の構成を決定づけてきたが、現代の「第三世界」から「先進」諸国への移民は、従属論や世界システム論のいち中心一周辺関係を示す現象である。さらに第三世界内部での移動は世界の構造的重属性をあらわしている。3.「現代における国際的な人の交流の進展と人権思想の発達は、国家が自国内に住む外国人に対する処遇を見直していく契機をもたらした。」この第3の問題こそが現在緊急の課題として対応を迫られていることである。さらに「国民国家」への同化ではなく、独自の分化を保持する権利、相違への権利、すなわち多様な文化の共存も課題となってきている。以上のように、「国民国家」、「国民経済」、「国民文化」を前提とした視点に固定された認識をほりくずすことに、本研究成果の意義があろう。
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