研究概要 |
今年度は, 研究調書に述べた今年度分の計画をおおよそ達成した. 今年度は, 広い意味でのエコノミストとしてのケイムズの分析をまず行う予定であったが, 昨年3月に発表した「エコノミストとしてのケイムズ卿」でケイムズの経済思想の基本的な部分を解明し, 社会思想史学会(10月)で報告をした「スコットランド啓蒙におけるユートピアと改革ーケイムズ卿を中心としてー」で, 補足をした. 前者で明らかにした点は, ケイムズは古典派的な自由主義的経済思想にある程度まで接近していたが, 理論的にヒュームに依存しており, ステュアート, スミスの理論からは相当に遅れているということである. 後者の報告ではケイムズ卿のスコットランド改革論についてもその概要を明らかにした. 改良地主としてのケイムズの実践と農業思想は, 少しふれただけに留まったので, 次年度に継続して研究する. ケイムズ卿の社会発展論と歴史観については, 上の二つの論文と報告で解明した. 主な論点は, ケイムズの社会発展論はスミス的な四段階論であること. 歴史観の特徴として, 理神論的な摂理思想が強いこと. スコットランドの目指すべき社会の姿は, 中庸の富と高い徳を実現した社会であること. そのために必要なのは下層階級のインダマトリと中・上流階級の公共精神であり, 前者を促進するためにケイムズは共貧制度の廃止, 後者を助長するために教養教育を提唱したこと, 等である. 今年度は, 以上の他に, 「スコットランド啓蒙におけるルソー」と「ジョン・ミラーにおける'科学'と'政治'」という二つの論文を発表した. 研究課題との関係についていえば, 前者はケイムズ卿のルソー受容についても論じており, 後者はケイムズ卿の法思想の影響を強く受けたグラスゴウ大学法学教授ジョン・ミラーの研究であり, したがって研究課題の推進に資するものである.
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