今年度は4論文を発表した。「ケイムズ卿におけるユートピアと改革」では社会思想史学会報告に加筆して、ケイムズ卿の社会改革思想、スコットランドの近代化への深いコミットメントを解明した。「スコットランド啓蒙におけるユートピアと改革」は社会思想史学会大会シンポジウムでの報告である。他の2論文「ジョン・ミラーとフランス革命」、「スコットランド啓蒙におけるフランス革命の一端」は、18世紀末のスコットランドの知識人にフランス革命がいかなる影響を与えたか、またそれはスコットランドの近代化や社会改革にいかなる影響を及ぼしたかについて、広い展望を与えるべく執筆した論文である。前者ではクラスゴウ大学の法学教授としてケイムズやスミスに強い影響をうけていたミラーの未公刊の講義ノート(「統治論」)をとりあげて、ミラーにはフランス革命を寛大にうけとめる思想があったことを明らかにした。後者では視野をひろげて、道徳哲学者のビーティー、ファーガスン、カーライルなどのフランス革命観をあとづけ、ミラーの立場に近かったマッキントッシュにも論及した。しかしスコットランド啓蒙におけるフランス革命の意義の解明は未だ十分でなく、ひきつづき調査の余地がある。 ケイムズ研究としては、未だジェントルマン・ファーマーとしての農業・農地改良・法学者としてケイムズの活動の全体、リードとともにコモンセンス学派の一角をなす道徳哲学者としてのケイムズの解明などが未だ残された課題である。スコットランド社会の近代化の研究も担当まで進めてきたが、なお果たさなければならない課題も多い。その意味で今年度の補助金でAnnual RegisterとNew Annual Registerを購入できたことは、有益であって、スコットランド社会の近代化の研究にとって大いに利用できる。
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