本年度はケイムズの影響をうけて18世紀末のスコットランド全域の総合的実態調査にとりくんだシンクレアの『スコットランドの統計的説明』21巻を入手し、当時のスコットランド社会の改革の進展状況について研究を深化することができた。一昨年度に購入したスコットランドを代表する雑誌『スコッツ・マガジン』のテクスト研究も進めて来たので、この二つの大きな資料を利用することによって、今年度は18世紀スコットランド社会の近代化の実態に相当迫りえたと考える。この二大資料を利用した研究成果は、来年度に刊行を予定している『スコットランド啓蒙思想史研究』に発表する他、逐次発表して行く予定である。 今年度執筆予定であった「ジェントルマン・ファ-マ-としてのケイムズ卿」は未完成である。研究課題に関連する論文として本年度に発表したものは「アダム・スミスとジョン・ミラ-ー市民社会史の成立と自然法学の変容ー」と「スコットランド啓蒙ー最近の研究動向」の二篇にとどまったが、とりわけ前者は、経済学という新しいパラダイムが法学、政治論、歴史叙述などの伝統的知的遺産をどのように克服して成立するのかについて従来の研究を一歩進めた考察を展開しているものであり、三ケ年にわたる私の研究の思想史的なレヴェルでの一つの総括でもある。 全体として今年度は資料の読解・分析に大半の努力を傾けたために、研究自体は相当進めることができたが、研究成果のまとめと刊行(発表)はまだ将来の課題としてその多くが残されることになった。
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