研究概要 |
昭和62年度においては, 当初予定した前処理法の研究に先立って, 前処理なしでどの程度まで出土材内部の非破壊的診断が可能であるかについての基礎的研究を行なった. この結果, 前処理しなくても予想以上に超音波診断法により, 水浸出土材内部の情報が得られることが判明した. その主たるものを列記すると次のようである. (1)含水率約1000%の広葉樹出土材では, 表常より深さ数cmの内部に発生した割れの状態を非破壊的に観測できる. (2)含水率約700%のマツでは腐食の進んでいない少材の部分とそうでない軟質な部分の分布を比較的明瞭に判別できる. (3)マツ, スギ, ヒノキ等の針葉樹では木口面に相当する断層と柾目に相当する断層画像について明瞭に判別できる. 広葉樹でも可能である. 以上のような結果のほかに, 内部の割れの発生状態を調べる際に, 表層の割れの発生状態を非破壊的に調査する新しい方法を開発した. この方法と超音波診断法を併用することにより効率的に非破壊検査をすることができる. この方法は赤外線TVカメラに水分のみを吸収するバンドパスフィルターを装着し, 割れの発生していると思われる部分に重水を滴下することにより重水を多く含む割れの部分を画像処理により検出する方式である. これにより肉眼的に判別が難かしい部分の判定が可能となった. また, 出土材内部への保存薬品や炭酸ガスの浸透過程についての理論解析を行ない, 出土材内の物質移動が, 純然たる水のみの系への物質移動現象に極めて近いことを確認した. これによってPEGをはじめ各種の保存薬品やガスの出土木材内部への浸透過程について, その浸透速度を理論的に予測するに足る手がかりが得られた.
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