9ー12世紀に書かれたポルフュリオス『イサゴーゲー』に対する注釈および関係文献のうち未刊のものすべてを校訂・出版すること、これが本研究の目的であった。本年度の研究経過で最も重要な点は、研究成果の公表形態について意たな展望がひらけたことである。1988年5月にフライブルグで開かれた第8回中世論理学ヨーロッパシンポジウムに出席し、本研究に関係するあるテーマで発表した際に、本研究の成果公表についても次の三つの場の可能性が生じた。(1)Freibarg大学教授Ch.Lohrが編集費任のあるTraditio誌に、研究成果の一部を掲載するよう、同教授に促された。そこで、本研究で扱った諸注釈のうちで最も古く、かつその後の諸注釈へ大きな影響を与えた点で重要な偽ラバーヌスの注釈(11世紀後半)を同誌に公表することにした。同注釈については、現報告段階ですでに、序文および校訂本文のタイプ原稿を送付済みである。(2)残る諸注釈の公表にむけては、Copenhagen大学教授S.EbbesenがMediaeual Studies誌と目下交渉中である。現在、校訂本文に最終的検討を施している所で、それも本年度中に終え同教授に送付する予定である。(3)本研究の対象は、当時の普遍論争に関する新資料を多く含んでいる。ところで、本研究者とは異った観点から当時のいわゆる「椎名論者nowinales」について研究してきたWisconsin大学教授W.Courtenayが、1989年夏に同問題についての'congress'を聞くことを提唱した。(同教授は、本研究者とは異った説をたてており、関係者間でさらに論ずるべき点が多い)。本研究でてがけた未刊著作の内「椎名論」学派に関係するものは同congressとの関連で公表したい。関連文献の校訂本文はcongress関係予定者に送付すみである。(4)以上【○!1】ー【○!3】を終えしだい、残る9ー11世紀に書かれたイサゴーゲー関係文献の整理にとりかかる予定である。(これらについては、1987年度に新写本が発見され、なおかなりの検討の余地を残している。)
|