研究概要 |
1.今年度の基本的課題はデカルト『情念論』を機械可読形式に仕上げることにあった. そのために, (1)テクストの選択, (2)入力要項の作成および入力業者への依頼, (3)校正作業, (4)東京大学大型計算機センターへの移植と編集作業, (5)パーソナル・コンピュータへの移植および検索, を主に行った. 2.次に『情念論』のテクストとしての性格を調べるための, (1)インデックスの試行的な出力, (2)「第一部」・「第二部」・「第三部」の鍵概念の切り出しと比較検討, (3)このように三部構成をとっていることと身・心問題との関係, (4)『情念論』を行為論として解読するに際してのテクスト構成上の諸問題への試行的探査, を行った. つまり, 身体側からの諸情念の成立に係わる生理学的な記述, 受け取られてあるのとしての心の諸情念の分類, 行いつつ生きるに際しての諸情念の役割とその制御, という三部構成的は, 「善とは何か」という問いから行為における〈よき〉を究明する途ではなく, 善く生きようとするためには, 何を弁え, 何から心を引き離し, 何に心を向けなければならないのかを明らかにする途である. 3.さらに他の著作の関連する部分, とりわけても『省察』「第四省察」および『哲学原理』「第四部」との連関を探るために, (1)「第四省察」における意志の問題, つまり形而上学という境地から行為の問題を見通すことの意味の把握, (2)『哲学原理』「第四部」からの連続的展開として捉える場合に明らかになる『情念論』「第一部」の意義の見定め, (3)かくして際立つことになる『情念論』のデカルト哲学における独自的役割とデカルト行為論の開示, これらへ向けての基礎作りを行った. 4.来年度にはさらに綿密な解読作業を続け, 確固たる解釈の土台作りのための諸作業とともに, 『情念論』をテクスト・データ・ベースとして公開するための諸作業を遂行する予定である.
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