当初の目的は、デカルト『情念論』を行為論として読み解き、その現代的意義を明らかにするための基礎的作業として、1.テクストを入力し、2.これを用いつつテクストの厳密な解読を進めるというものであった。 1.について。『情念論』はファイル化され、文書解析プログラムOCP(Oxford Concordance Program)にかけて、インデックスないしはコンコーダンスを随意に出力できる状態で、東京大学大型計算機センターに保存されている。ただし、所雄章中央大学教授を代表とし、本研究代表者を中心にデカルト・テクスト・データベースの公開に向けての諸作業が推進されている現在、その順序からして『情念論』は『省察』「反論と答弁」、『哲学の原理』などの後に来るものであり、『情念論』については未だ十全なる校正と最終的編集を経たテクスト・データベースにはなっていない。今後ともこれらの作業を経読し、いずれ公開する予定である。したがって、本「研究実績報告書」に添付されている「科学研究費補助金研究成果報告書」も、本研究の全成果を集約するものでありながらも、今後の作業を遂行して行く上で必ずなさねばならぬことという点では過渡的成果に留まる。 2.について。テクストの解読作業を通じて『省察』「第四省察」と『情念論』との深い係わりが明確になり、そこからさらにストア哲学からの流れとの連関および断絶も浮かび上がってきた。このことに基づきつつ、本研究代表者は「第四省察」の解釈、それはデカルト形而上学そのものの再把握的解釈の上に立つものであるが、これを結実させた後に『情念論』の精確な解読も可能になるという知見を得た。かくして、メタテクスト的研究手法を用いつつ、『情念論』を行為論として読み解くための道筋が二年間の研究によって明確になったのである。
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