研究概要 |
本研究の目的は, 二年間にわたり心身問題のもつ科学哲学上の意義を解明にしようとするものであり, 第一年度たる本年度は, 現代における心身問題の展開を現代英米の認識論, 科学哲学を中心に考察してきた. その対象は主として三つの分野からなり, その研究実績の概要は以下のとおりである. 1.認識論的には, いわゆる「他者の心の問題」が考察された. これについては伝統的に「類比による論法」が論議の的となってきた. これに対するアンチテーゼとして後期ウィトゲンシュタインの私的言語論に基づく「規準による論法」があり, 特に後者の議論の意義とその限界について考察した. 2.日常的に他者の行動をその信念や欲求を引き合いに出して説明したり予測したりするさいにわれわれが依拠する理論上の枠組みは, 最近の文献において「通俗心理学」ないし「常識心理学」と呼ばれている. この理論的枠組みの存在論的な身分をどう考えるかは心身問題と深く結びついている. これについては大きく分けて三通りの考え方が見られる. 一つは, 実在論的な見方であり, 信念や欲求を, 洗練された形においてであるが, 科学的な理論上の存在物として認めるものである. 第二は, そうした命題的態度は科学的対象たりえないとして, 通俗心理学を消去する反実在論的な見方である. 第三は, D・C・デネットに見られるもので, 通俗心理学を道具主義的に見る立場である. 以上三つの考え方の優劣は将来の心理学の在り方と関係し, 容易には決定しかねるものがある. 本年は特にデネットを中心に考察を進めた. 3.最後に, 以上の問題の交叉する点として, またそれ自体重要な人物や自我の問題がある. とりわけデリク・パーフィットはその近著においてこの問題を論理学との関連において捉え, 興味深い問題提起を行なっており, それをめぐっていくつかの研究がなされている. これは端緒についたばかりであり, さらに研究を要すると考えられる.
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