北宋の慶暦年間におこった新たな思想運動の性格とその展開、更にその中で道学がいかにして一つの学派として形成されていったかが本研究の主題であったが、二年にわたる研究作業により以下の成果が得られた。 1、慶暦の思想運動の立役者の一人に欧陽脩がいるが、従来より彼の思想史上の位置は今ひとつ明らかでなかった。今回、彼の著作の全面的検討により、そのオピニオンリ-ダ-としての性格と役割り、ひいては慶暦の思想運動そのものの思想史上の意義が明確になった。 2、道学が形成された時代、道学と類似の思想が各地に存在した。陳襄ら古霊四先生もその一つであるが、これらの思想家たちを広く調査することによって、今まで道学の特色とされていたものが必ずしもそうとは言えないこと、また道学者たちが当時どのような形で自己主張をしたのかが明らかになった。それとともに、道学形成史における程頤の存在の重要性があらためて確認された。 3、道学形成期の思想界の王者は王安石の学問であったが、王安石の主著の輯佚作業と彼の批判資料の収集作業を行ないつつ、その学問の来歴と性格を究明した。そして王学(王安石の学問)と対比することによって、道学者たちの議論にこめられている含義を堀りおこすことができた。 4、その他、仁宗、英宗、神宗、哲宗、徽宗朝の思想文献の渉猟によって、この時期の思想動向への展望が得られた。
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