研究概要 |
現存文献としての叙事詩がカヴァーする時代は, ヒンドゥー教を根底にしながら, 一方においてサーンキャ, ヨーガ学派が成立・興隆するとともに, 他方にいて仏教・ジャイナ教が成立・興隆し, しかもこらが相互に交流した時代である. しかるにこれらの諸哲学・宗教それぞれの最初期の思想形態は, これまでの研究史の蓄積にもかかわらず, かならずしも十分明確とは言えないから, まさにこのような思想史的情況を反映する叙事詩の精密な分析が重要な意義を有することになる. その結果として, 叙事詩と仏教その他との関連を解明し, 叙事詩の哲学思想について, ある程度厳密な年代的位置づけを見出すことが可能となる. このような全体的な問題に関しては, 論文「サーンキャ《哲学》とヨーガ《実修》」が本研究の基本的な視点とその成果の一部について概要を明らかにした. また, その中で, 『バガヴァッド・ギーター』の思想構造の基本的な特色を概観し, それがインド中世の神秘主義思想の中核をなすとともに, インド以外をも含めて, 発達した神秘主義の特色をも示していることを指摘した. この問題についてはさらに詳細な論述を本研究の成果の一つとして提示することとしたい. その際に, 所謂『ギーター文献』をも, 『バガヴァッド・ギーター』と比較検討しながら, あわせて考察する. 叙事詩の哲学思想と仏典・ジャイナ教文献との関連については, 前掲の論文においても若干の言及をしているが, 特に現存仏典の編集形態について根本的な再考を促す資料が叙事詩の中に存在する. その研究への序論として仏教の概念sokkayaに関する考察の一部をすでに昭和61年に発表したが, その研究も進めた. なお叙事詩の年代的考察にとって, 韻律の問題も重要である. 『中論』の文献学的研究によって, 『中論』の韻律形態が叙事詩から古典サンスリリットへの過渡的時代に属することを明らかにした.
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