日本仏教の底流にある観心の問題を通して、日蓮の宗教の思想的背景とその特色について明らかにすることが本研究の目的である。 本研究を進めるにあたり、次の六項目について検討を試みた。1.天台教学における観心思想、2.日蓮における観心思想の受容、3.観心本尊抄お事具論、4.一念三千の名目出処、5.一念三千と立正安国、6.日蓮教学における観心思想の特色。 1では日蓮教学の基盤となっている天台教学の観心思想について検討し、一心三観の観法や法華三昧などの行法が日蓮の観心思想の遠因となっていることを指摘した。2では、天台の観心を一念三千と認識した日蓮の独自な天台教学受容について述べ、これを題目受持お唱題に集約し、教観不二の宗旨を樹立していった日蓮の観心思想について検討した。3では、日蓮が独自な観心法門を論理的に体系づけた 『観心本尊抄』 の事具論を考察することによって、一念三千法門に立脚した日蓮の独自な観心思想について論述した。4では一念三千の名目出処に関する日蓮の叙述を通して、本門事一念三千に日蓮の観心思想の本質があることを論じた。5では、日蓮の観心思想の本質である一念三千の具現化が立正安国であることを、題目受持の唱題との関連のなかで論じ、日蓮の宗教具体性・現実性について検討した。6では、以上のまとめとして、日蓮教学における観心思想の特色を次の諸点に要約した。 (1) 時の認識、 (2) 末法救済のく教法、 (3) 一念三千の受容、 (4) 三業円満の唱題、 (5) 立正安国運動、 (6) 法華経の実践、 (7) 地涌の自覚、 (8) 本時の娑婆世界。これらの点をもって、日蓮の宗教が社会との関わりのなかで極めて具体的・現実的に展開していったことが指摘でき、個人的観念論ではなく、人々の日常生活にそくした日蓮は釈尊の世界をみていたことがわかる。
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