研究概要 |
大乗仏伝ラリタヴィスタラの和訳研究を中心テーマとする本研究課題「大乗仏教と仏伝文学」は, 科研費の補助を得て, チベット語訳及び梵語原典写本のコピーを入手し, 更に, 多くの辞書や関係図書を購入することができたことによって, 今後飛躍的に進展するであろう. マイクロフィルムやマイクロフィシュからの複写によって, 国内・国外図書館から取り寄せたラリタヴィスタラの資料は, 梵語原典4, チベット語訳写本3であり, また, 他の仏伝経典についても, 多くのチベット語訳写本のコピーを入手した. 写本を中心とする作業を進めることによって, 過去に出版されたラリタヴィスタラのTextはいずれも不充分なもので, 新たにTextを編纂する必要のあることが明らかとなった. 筆者は, 現在, Textの発行を目的とする研究を続行中である. ラリタヴィスタラの原文解明に必要なもう一つの作業は, 関連する他の仏伝文献との比較対照である. 即ち, 他の仏伝の内容を参考とすることによって, ラリタヴィスタラの和訳は容易且つ確実なものとなる. 今年度発表した「仏伝としてのシャーキヤシンハジャータカについて」という論文も, 諸仏伝の比較対照を行ったものである. 他方, 大乗仏教の大衆的性格は, その中に, ヒンズー教の慣習や信仰を取り入れることと相まっており, 特に, 仏伝文学とヒンズー教文学との関連を念頭に置くことが重要であると思われる. その方面の研究として, カーリダーサの「クマーラサンバヴァ」の和訳を試みつつある(近いうちに発表の予定). また, 仏伝の中に取り入れられたヒンズー教的儀礼の一つに, 食事の供養に対する謝礼として「呪願」を唱えることがあるが, これは「施餓鬼」の信仰を経由して大乗仏教の「廻向」へと展開するものであることが分かった. これについては, 昭和63年度の「西日本宗教学会」において, 発表する予定である.
|