昭和63年度は、前年度と同様に資料の調査収集を継続するが、同時に課題毎に資料を整理し、問題究明に不足する基礎的資料の補充に努めた。その資料整理の成果は、次のような七個の課題によって分類された。 1.維新仏教と政教関係。(1)『官許教導職々員録』(天台・真言・浄土・臨済・曹洞・真宗・日蓮・時宗等の各宗派僧侶への官吏待遇、但し無結)にみる教導職補任の実情。(2)華園摂信の日誌にみる政教関係問題。以上(1)(2)における問題点は、まず政府の教部省通達で「三条教則」に則る教化活動を支える組織として、僧侶の「帰依信者の講中会社」の組織を公認するが、期せずして、宗教政策の強圧への忍従を余儀なくされていた状況を打破する信仰復活の結社運動として、政府の仏教統制政策の弱体化に迫る契機ともなった。 2.仏教各宗派の教会・結社条例とその影響。その課題では(1)曹洞宗教会条例・(2)真宗教会規約・(3)真宗大谷派教会結社条目・(4)本願寺派教会結社条例等によって、主要な結社運動を対比した。 3.仏教諸宗派協同の教会結社の結成とその動向。和敬会の影響の一端は、加藤恵証の『弁士必携仏教演説指南』に認められる。特に僧侶論・釈尊論・集会条例対策論、巡回布教講師派遣の広告が目立っている。 4.曹洞扶宗会の結成とその発展。5.曹洞扶宗会首唱者大会議の模様。6.曹洞扶宗会の教化思想の樹立などの課題では、仏教諸宗派中真宗諸派と共に、最大の規模を誇る曹洞扶宗講社結成の実態を、収集発掘された資料に探った。特に6.教化思想の樹立では『洞上在家修証義』が『正法眼蔵』の宗教を如何に体現したかを追及し、禅仏教における庶民信仰の実情を、各地の曹洞扶宗講社での僧俗との結合関係に探った。 また7.曹洞扶宗会扶宗講社発展の実情では、講社の分布情況・講社々長名などの結社運動の規模の全貌が漸くにして明らかにされた。
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