研究概要 |
本研究の目的は, 芸術の歴史を通して示された芸術表現上のさまざまな主題のうちから, 基本的で重要と考えられる可能な限りの主題を特定し, 時代, 民族, 社会等々の芸術世界の構造上の諸契機に応じて, その主題が表現上いかなる展開をとげるかを追求することにある. そして本年度の研究の実施にあたっては, まず各芸術領域に共通し, 美学的総合的な研究に適切な芸術表現上の主題を特定することをめざした. が, それぞれの分担するジャンルが, 美学, 美術, 工芸, 音楽, 演劇という広がりをもつため, まず, 主題とは何かという問題に研究の焦点をしぼる結果になり, 芸術各ジャンルにおける主題の特性の分析に努めた. その結果, 各ジャンルの主題の特性に関して以下の点が明らかになった. 1.音楽においては, 主題はモティーフの集合体とみなすことができ, モティーフの正確と構造が, 全体としての主題の性格と構造と展開の可能性を決定する. その意味で, 主題とモティーフの関係は最も緊密である. 2.工芸では, 主題よりはモティーフ(オーナメント, パターン, 文様)が, 作品表現の主要な特性を決める. 3.美術においては, 主題はむしろ描写対象が, 作品表現の特性を決定する. 4.映像・文芸に関しては, 主題は表現の目標としての思想内容にあたり, 素材(題材)を作家の精神的観点から捉えることによって抽出される意味連関であり, モティーフとミュトス(Mythos)ないしプロットによって具体的に展開される. 以上から主題(Thema)のモティーフとの関係, ミュトスとの関係が次の研究課題の一つとなる. 次年度は各ジャンルの主題の特性に対応する表現形式とプロセスを吟味する.
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