研究概要 |
現在迄募集した文献からデューラーの芸術観とイタリア・ルネサンスのそれとを比較検討すると次のようにいえる. デューラーの自然観では, 類型と法則としての自然という観方が強い. 類型という観方は, 法則に貫かれた自然の秩序という考え方を培い, また神がその法則によって自然を創造し, 秩序づけるという信仰が, 自然を聖別化する. そこから自然のあるがままを尊重して, イタリアの美術家がなしたように, 自然を理想化したり, 造形的効果のために単純化や省略を行うことは, 控えられる. しかし美術家はあるがままの自然を表現することは勿論できない. そこで美術家は自然を自然らしく表現するためには, 自然の原理や法則を認識して, それを作品に反映させなければならない. その反映のさせ方にイタリア美術との表現上の相違が生じる. それを端的に表すのが調和観である. イタリア人の調和観では, 全ての部分が協調して, 統一的にして必然的な全体を作りあげるように作品を完成すべきだとするが, デューラーのそれでは, エックハルトの思想と関連づけられて, 神は自己の精神内の原像にあわせて万物を作られた後にも, その原像は神のうちにとどまるという考え方から, 美術家は神の精神の裡にある原像の忠実な反映をめざして作るべきだとする. 前者では全体の統一が, 後者では原像の忠実な反映が問題なのである. 更にデューラーは美術家の変形という行為の意義を力説する. 即ち, 美術家は自然から出発するが, その法則を創作の原理へと変容せしめて初めて創造という偉大な行為に参与し得る. 美術家の豊かな表象世界が視覚的な形で現象するには, 現実世界と表象世界を結合する変形という能力が要求される. 以上がこれまでの知見であるが, 今後の課題として, デューラーで重要視されるこの変形という概念を一層明晰に解明して, 彼の具体的作品の中で, この概念が如何に現実化されているのかを考察したい.
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