デューラーの芸術論とその作品創作との関連について、入手し得た文献から、次の知見を得た。1.デューラーの絵画観における美の本質をなす"vergleichlich"という概念は、究極的には自然法則の純粋な反映として理解される。この概念はイタリアの"convenienza"や"armonia"のそれと通じるが、より深く自然に根ざしていることが認められる。デューラーの作品の特色の1つたる細部表現は、この自然法則の反映としての調和観の顕われとみることができる。2.人体比例理論の立場より両者をみると、美術作品は調和と均整を表わすべきだとする古代的理念のもとに、美は比例にありとする命題がイタリア人の間に確立された。またその美は有機的動体としての人体の感覚的美でなければならなかった。この見地からイタリア人は、人体比例は全体を1とする分数方式よりも、面長を単位とするモデュール方式による方がより有機的に確立されると考えた。これに対してデューラーは、これら両方の方式をともに採用してその深化に努めて、イタリア人に較べてはるかに多様な型と詳細な測定値を求めた。その理由として、デューラーは比例の問題を美の実現の手段とみなすとともに、現実の人問の個性的表現に十分に応え得るものでなければならないと考えたことがあげられる。デューラーの作品の人物像がイタリア人のそれに較べて、美よりも個性的表現にその力点がおかれていることは、これと呼応する。3.デューラーの芸術論ではイタリアのそれよりも変形が強調される。変形とはある基本的形態から多様な形を作り出すことを意味する。しかも変形は自然法則を逸脱しない形でなされなければならない。逸脱すればそれは奇形として斥けられる。デューラーの作品世界は、イタリアのそれに比べて、空想豊かでしかも現実味の濃い造形世界を示す。例えばヨハネ黙示録木版画連作がそうである。この豊かさを支えているのは実に変形であると考えられる。
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