本研究は、覚醒水準と瞬目活動の関係を検討することを目的とした。実験制御とデータ処理の自動化をめざしてパソコンを用いたシステムを開発したうえで、2つの実験を行った。実験1では、覚醒下監視作業のもとで、瞬目活動に及ぼす心的負荷、発生および課題従事時間の効果を検討した。49名の大学生被験者に、2秒に1回コンピュータ画面上に提示される平仮名文字を監視し、標的文字をカウントするよう要求した。標的文字の種類により、心的負荷を3水準、カウント結果を刺激提示の都度発生するか否かで2水準を設け、3×2の要因配置計画のもとに6条件を設定した。その結果、瞬目率は課題中減少し、休息期に回復する特有のパターンを示しつつ、時間経過につれてほぼ直線的に増加した。脳波は時間経過につれて除波化が進み、心拍率は減少した。視覚監視作業に長時間従事することによって、覚醒水準が徐々に低下し、瞬目率は増加することがわかった。さらに、心的負荷が増すと刺激提示後の初発瞬目潜時には延長し、ゆるやかな立ち上がりで低振幅の波形と変化したが、瞬目率には影響しなかった。また、標的文字試行で瞬目潜時は、100〜250ms延長した。短時間で推移する覚醒水準の変動に対応して、瞬目発生のタイミングと波形が変化することがわかった。なお、発生条件では瞬目率の増加傾向が認められた。実験2においては、催眠誘導によって操作的に覚醒水準を低下させた睡眠群(n=12)における瞬目率変化を検討した。実験1と同様の課題下で、実験群(催眠群)と催眠誘導を行わない統制群の瞬目率を比較した結果、催眠誘導によって瞬目率は約50%に減少した。また催眠深度尺度(SHSS)と瞬目率との間に有意な負の相関が認められた。催眠誘導による覚醒水準の低下によって、瞬目率が低下することがわかった。以上の結果は、覚醒水準の指標として瞬目活動が有効な生理心理学的指標であることを示す。
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