前年度は、サルで用いられたSerial-Probe-Recogrition(SPR)課題と同様のSAME/DIFFERENT弁別がスライド写真刺激を用いてハトにも適用しうることが確認された。また、試行間間隔を操作した保持テストでは、かなり長期的な記録がスライド写真に対して生じていることも明らかにされた。これらの知見に基づいて、本年度はハトが物理的には非常に複雑なスライド写真刺激のなにを手がかりにしてSAME/DIFFERENT弁別を行っているかについての基礎的検討を試みた。 動物、風景、昆虫、人工物などのスライド120枚を用いて62年度と同様のgolno-go型のSAME/DIFFERENT継時弁別を行った。訓練完成の後、新しい90枚のスライド写真を用いて、それらをSAME試行で正立、左右逆転、上下逆転、左右・上下逆転の4条件で呈示した。正立SAME試行では新しいテスト刺激に対して訓練時と同様の低い反応率がみられたが、逆転SAME試行では比較的高い反応率が示され弁別比は低減した。テスト刺激を用いた訓練に伴って、逆転SAME試行での反応率は急速に低下し約40日で再び弁別は完成基準に達したが、上下逆転より左右逆転で反応率の低下は急速で、呈示角度による効果がみとめられた。尚、この訓練期間中、90枚のスライドから無作為に選ばれた18枚のスライド刺激は正立SAME試行またはDIFFERENT試行でのみ用いられ、逆転して呈示されたことはなかった。訓練完成の後、これら18枚のスライドを逆転SAME試行で初めて呈示し、弁別の転移をみた。左右、上下、左右・上下逆転による反応率の有意な差はなく、いずれも訓練期や正立SAME試行と同様の低い反応率が維持された。以上の結果から、ハトのスライド写真認知には比較的長期な記憶が介在し、また、ハトはスライド写真の部分的要素ではなく、まとまりのある全体としてのスライド写真をSAME/DIFFERENT弁別の手がかりとして用いていることが明らかに示された。
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