動物を用いた自然概念の形成とカテゴリイ化の研究では、従来はgo/no-go型の経時弁別が行われ、動物が弁別すべきカテゴリイと使用されるスライド写真刺激はヒトである実験者によって任意に決定されていた。本研究では実験者の恣意性から自由な実験パラダイムとして、サルに適用されているSerial-Probe-Recognition(SPR)課題と同様のSAME/DIFFERENT短期記憶弁別課題のハトへの適用の可能性を検討し(62年度)、同様の課題を用いてハトがスライド写真をどのように認知しているかについての基礎的検討(63年度)を試みた。 1.実験I:動物や風景などのスライド120枚を用いて、前試行と現試行のスライドが同じか異なるかの弁別訓練をgo/no-go型の経時弁別事態で行った。訓練完成の後、試行間間隔を1〜50秒に順次変化して保持テストを行った。最長の50秒でも弁別比は高く維持され、色や線分などの記憶材料を用いた場合に較べて、かなり長期的な記憶がなされている事が明らかにされた。 2.実験II:実験2-1では前実験と同じスライドをSAME試行で左右逆転、上下逆転、左右上下逆転、正立の4条件の角度で呈示した。逆転によって弁別では低下したが、左右逆転は上下逆転より弁別は良く、スライド写真の方向による効果がみとめられた。訓練に伴って逆転試行での弁別は回復し、新しいスライドによる転移テストを行った。正立条件では完全な転移が生じたが、逆転条件での弁別比は低下した。実験2-2では、実験2-1の転移テストで用いられたスライドで訓練した後、親近性はあるが今まで1度も逆転されたことのない刺激への転移を測定した。親近性があれば逆転していてもほぼ完成な転移がみられ、ハトのスライド写真認知には長期的な記憶が介在しまた、刺激の部分的要素ではなくまとまりのある全体としてのスライド写真が弁別の手がかりである事が明になった。
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