まず、ニホンザルの集団場面でトークン使用という行動が獲得しうるか否かを検討した。京大霊長類研究所の放飼場で飼育されている鳥取県若桜からの捕獲26頭の中にサル用の自動販売機のような装置を設置した。この群れのサル達は、すでにレバーを押して大豆を一粒入手するという行動レパートリーを習得済みであったので、このレバーを押すという行動のかわりにゴルフボールを受皿に入れたら大豆が一粒呈示されるような装置に改良して、このゴルフボールをトークンすなわち貨幣として使用するという行動が生じるかどうかを観察した。耐久性 (ただし、ツーピースボールに限る) と観察者にとっての視認性およびサルにとっての扱いやすさから、トークンとしてゴルフボールは最適の物体であることは分ったが、自発的にトークンとして使用するという行動はどの個体にも見られなかった。そこで、ゴルフボールと自動販売機の両方に強い関心を示し続けた、二頭のワカモノザル、アカネとカンペをターゲットにして、オペラント条件づけの逐次接近法を利用して学習の促進を行なった。その結果、アカネの方はトークン使用を習得した。このアカネによるゴルフボール・トークンの使用場面を他の個体も近くで観察しているにもかかわらず、他の個体には伝播が認められなかった。つまり、アカネという同種の個体による最高のモデルが与えられているにもかかわらず、数ヶ月の観察期間中には全ったく伝播の様子が見られなかった。このことから、トークン使用という行動そのものがかなり習得が難かしい行動であることが明らかとなった。そこで、強化刺激の動機づけ操作がしやすく呈示機構が単純で、比較的強化回数も多くすることが可能なオレンジジュース用のディスペンサーの開発や、行動観察のデータターミナルとしてポケットコンピュータを使うことなども検討し、それぞれ、使用に耐え得るような試作品の開発に成功した。
|