日常体験、特に情緒的印象を表現するのに、いかなる記述法を用いるかについて騒音問題を例として検討した。即ち、騒音を表現する用語に関して、先にわれわれが提案した音源記述選択法を用いて、日本、スウェーデン、西ドイツ、中国で同じ音源を用いて実験を行い、様々な音の印象がどのような言葉で表現されるかについて比較検討を行った。刺激として、航空機騒音、鉄道騒音、自動車交通騒音、音声、音楽、建設騒音の6種、各4レベル、計24種の音を用いた。各国の被験者にはこれらの音を聞いてその印象を表現するのに適切だと思われる形容詞を32の形容詞リストの中から順位をつけて3種選ぶように求めた。その結果、"大きい"は、日本、スウェーデンとも主として音楽と音声に、西ドイツでは多くの音源に用いられ、一方、中国では音の表現にほとんど用いられていないことがわかった。"やかましい"、"うるさい"についても各国でかなり相違が認められた。特に日本では2つの用語の選択比率は類似しており、音源のレベルが高いほどこれらの言葉が選ばれる比率も上昇している。一方、他の国では音声に"やかましい"を選択していない。スウェーデン、中国では交通騒音に"やかましい"、建設騒音に"うるさい"がより多く選択され、かつ日本を除く各国において"うるさい"は音源があるレベルを越えると、レベルに関係なく選択されている。このことは、日本を除く各国において、"やかましい"という用語はレベルの高い音、音質の悪い音に用いられ、"うるさい"は音源から受ける迷惑感を表現する言葉として区別されていることを示唆している。この様に、"うるさい"には音の物理的条件以外の心理的要因が関与することが予想される。別途実施した実験で、人工音では"うるささ"判断と"大きさ"判断には差がみられなかったが、現実音の判断においては大きな差がみられたことはこの解釈を支持する根拠の1つとなっている。
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