研究概要 |
本年度の研究においては, 主として明と暗のEhrenstein錯視における相互打消し効果を検討した. 8名の被験者による実験の概要は次の通りであった. 一様灰色面上(輝度18mL, 反射率39%)に8本の黒線分(反射率2%)を線端を離して(視角で47′, 1°34′そして2°22′)放射状に配置すると線端間の中心領域に円盤状の明のEhrenstein錯視が生起し, 同様に白線分(反射率73%)を配置すると暗のEhrenstein錯視が生起した. そして, 明および暗のEhrenstein錯視が生起するとき, Ehrensteinパターンの中心領域と背景領域の明るさは統制条件としての一様灰色面に比べて低下した. そして, 線端間距離を拡大していくと8本の白線分による暗の錯視は弱まり, 8本の黒線分による明の錯視は逆に強まることが明らかになった. 即ち, 線端間距離を拡大すると, 黒線分であれ白線分であれ, その背景領域の明るさはほぼ一定であり, 中心領域の明るさが一様灰色面の見えの明るさに近付いた. 一方, 明と暗のEhrenstein錯視が相互に打ち消されるかどうかを検討するために, 4本の黒線分と4本の白線分を交互に放射状に配置して(以下, これらのパターンを黒白複合パターンと呼ぶ), 中心領域と背景領域の見えの明るさを測定し, 一様灰色面の明るさと比較した. その結果, 全ての距離条件で, 背景領域の明るさは一様灰色面よりも暗く, 黒白複合パターンにおけるEhrenstein錯視の強さは黒線だけによる明と白線だけによる暗のEhrenstein錯視の中間であった. この結果は, 明と暗のEhrenstein錯視が相互に打ち消し合っていることを意味する. また, 黒白複合パターンにおいて垂直・水平に配置された線分の方が斜方向に配置された線分よりも強い錯視を誘導し, 錯視の強さは線分の方向にも依存することが明らかになった. 以上の結果は, 輝度に依存する興奮と抑制および輝度差に依存する非拮抗型抑制によって生起するものと思われる.
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