研究概要 |
本研究は, 音の周波数の変動と強さの変動が同時に存在する場合について, 一方の変動による動的知覚が他方の変動の存在によってどのように影響を受けるか, その相互作用を調べることにより, 聴覚における変動音の知覚過程を明らかにしようとするもので, 以下の知見が得られた. 1.音の周波数の変動(FM)と強さの変動(AM)が同じ速さの正弦的変動では, 一方の変動閾値は同時に存在する他方の変動の時間的ずれ(位相差)によって違いが現われ, このような条件ではFMとAMの変動知覚は互いに影響しあう. ただし, この影響は速い変動のときの方が遅いときよりも大きい. 2.しかし, FMとAMの間で変動の速さが異なる実験から, FMとAMの変動閾値は速さが同じときに最大となり, 異なるとともに閾値が下がり, 速さがある範囲内でのみこれらの変動知覚は互いに影響しあう. 3.同一の正弦的変動をもつFM音とAM音を, それぞれ左右耳別に与えたとき, 一方の耳の変動閾値は他方の耳の変動音の存在により影響を受けないことから, FMとAMの変動知覚は両耳間では独立である. 4.変動パターンとして, 周波数及び強さが短い音の継続時間内で, 一方的に増大あるいは減少する同時変動パターンで変動閾値を求めた結果, 一方の閾値は同時に存在する他方の変動パターンの変化方向により影響を受けない. 以上から, 聴覚におけるFMとAMの処理過程は基本的に独立であるが, どちらも同じ速さの周期的変動のとき, 互いに影響しあい独立ではない. しかし, 同じ速さの周期的変動のときでも片耳のFMの処理と他耳のAMの処理は独立に行なわれることがわかった. これらの刺激音はすべてコンピュータ合成によったが, その際合成波形の記録と折返し歪除去にそれぞれディスクユニットとフィルタを活用した. 現在, これらの結果をまとめて日本音響学会誌に発表のため執筆中である.
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