本研究は、音の周波数の変動(FM)と強さの変動(AM)による変動音の知覚過程がそれぞれ独立なものが、あるいは変動感という共通な心理的次元で結びつくのかを検討することにより、聴覚における変動音の知覚過程を明らかにする目的で2つの実験を行った。音の平均周波数は250H_z、変動の速さは約3H_zから20H_zまでの変動が知覚できる範囲で実験した。変動の主観的深さが等しい正弦FM音と正弦AM音について、FMとAMを識別できなくなる変調周波数を調べた。その結果、変調周波数が約10H_z以上になるとFM音とAM音の識別が出来なくなり、変調が深いときの方が浅い場合に比べてFM音とAM音を識別し易いことがわかった。次に、これらの変動の種類を識別できる変調周波数(3H_zとできない変調周波数(20H_zとで、周波数変動に対応する心理的次元と振幅変動に対応する心理的次元を見いだせるかを多次元尺度法による刺激の心理空間から調べた。そのため、FM音、AM音及び同時FM-AM音を用い、これらの音の非類似性判断に基づいて一対比較実験を行い、このデータを多次元尺度分析した。その結果、変調周波数3H_zでは、変動感に関する次元として、高さの変動、音の大きさの変動に対応する次元が抽出されたが、一方20H_zでは、これらは単に変動という共通な次元にまとまった。以上から、聴覚におけるFMとAMの処理過程は、どちらも同じ速さの周期的変動のときは、変動の速さによって2種類の聴き方が存在し、変動が遅い場合には、FMとAMに対応した音の高さの変動と音の大きさの変動が別々に知覚され、聴覚系では独立にこれらを処理しているが、変動が速いとFMとAMに特定しない1つの変動として知覚され独立ではなくなることがわかった。変調周波数が高くなるとこれらの変動を分離できなくなるのは、FMとAMに対する聴覚処理系の間に周期のチャンネルが動作すためであると考えられる。
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