本研究では、認知対象と認知者自身の相互交渉性の問題を、対人情報処理過程におけるスキーマの機能との関係から検討を行なった。そこで、対人情報処理過程を問題にする時に重要となってくる「認知者-認知対象の相互関係性」のうち、2つの論点を取り上げ、実験により検討を行なった。取り上げた2つの論点とは、 (1)認知者と認知対象との相互的関係性の有無と (2)認知対象から認知者に向けられた感情的/評価的反応が対象の認知に与える影響の2点である。 まず、第1の実験では、認知者が認知対象と対面するなどして、相互に認知し/評価し合う直接的関係が両者に生じる可能性がある場合と、認知者が認知対象を単に一方的に認知するだけの場合とを比較しながら、特定の他者に関する情報の処理がどのように異なってくるかを検討した。その結果、認知者が認知対象と直接的に関係する可能性のある場合はそうでない場合に比べて処理された情報の内容や認知者が対象を認知している時に注意を向けていたと答えた点が異なった。対象と直接的関係がある場合は、「優しい」など評価的側面を強く含んだ情報が処理されやすく、具体的動作や外見などの細かい情報は処理されにくかった。また、第2の実験では、認知対象が示している肯定的/否定的反応の効果が、認知者と認知対象とが直接的関係性を持ち、認知対象が認知者自身に向けて反応している場合と、両者に直接的関係性がない場合とで異なるかを、反応時間や印象などを測定して検討した。その結果、相手と直接的関係性のない場合では、相手の示す反応の内容による違いがそう大きくなく、共通した印象が持たれやすかったのに対して、相互交渉性の事態では、相手の反応により、情報処理の仕方や形成される印象が大きく異なり、否定的な反応を示された者は、相互交渉性の側面のみに注意を払い情報を処理していた傾向が認められた。
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