大学生(大半は1年生)を対象に、英単語の命名潜時、仏もしくは独単語(第2外国語として履修中のほう)の命名潜時、英文の読解力、仏文もしくは独文の読解力を測定した。英単語については、1シラブルの単語、2ないし3シラブルの単語各10語を呈示した。英単語の命名潜時によって被験者を3群に分け、英文読解の成績を比較したところ、命名潜時大の被験者は読解の成績が劣っていた。命名潜時小と中間では、差がなかった。この傾向は、英単語の長さ(シラブル数)を変えてもかわらない。一方、仏単語については、読み誤りが多く、なかにはまったく発音しない者や英語風に発音する者もいたため、命名潜時によって群分けをすることができなかった。もっとも、彼らの仏文読解の成績はそれほどひどくない(ただし辞書を引くことを許した)から、仏文の処理にあたっては、仏単語の仏語らしい音韻的コ-ド以外の表象が使われているとみられる。独単語については、読み誤りは少なかったが、独語履習者が少ないため、命名潜時と読解成績との関連を分析することができなかった。 上記の実験も含めて、文字・語の識別と読解能力との関連について、試論的一般化を試みた。これは次の4つに要約される。i)文字の識別がある程度速く(短い潜時で)行なわれるようになっていることが、書かれた単文の理解の前提になる;ii)語の識別がある程度速く行なわれることが、文章理解を促進する;iii)語の識別の速さは、それが属する言語によって個人内でもかなり変動するから、文章理解の成績も言語によって異なる;iv)ただし、語の正確で速やかな「発音」が、読解の前提というわけではない。
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