人間関係において人々がはたす機能には「道具的機能」と、「自己完結的機能」の2つが区別されることはほぼ一致して認められている。これに対し、ShaverとBuhrmester(1983)は、人間関係に対する個人の側からの欲求として「社会的参画」および「心理的親密さ」への欲求を仮定した。ここで「社会的参画」への欲求は「道具的機能」の遂行を通じて充足され、「心理的親密さ」への欲求の充足は「自己完結的機能」の遂行と密接に関係していると考えられる。このように、機能および欲求の面から人間関係をとらえようとするとき、そこにほぼ共通する2つの次元が見出されているが、これに関する共通の問題点は、いずれもこの2次元を独立と仮定していることである。 このような仮定が生じる理由は、それぞれの機能の発生・成立の過程あるいは欲求充足のための条件の検討がなされていないためである。発生的にみれば、これら2次元の機能または欲求は、ある位相では相互妨害的な関係をもち、別の位相では相互助長的な関係にあると予想される(永田、1972;1986;1988)。具体的には、「道具的機能」または「社会的参画」への欲求の充足が「自己完結的機能」または「心理的親密さ」への欲求の充足の必要条件であるが、充分条件ではないと仮定できる。 未婚の大学生男子122名、女子173名、既婚の男子53名、女子120名計468名を対象とした調査の結果は、上記の仮説がほぼ妥当すること、しかし、家族関係は、職場あるいは大学のクラス、さらに私的なグループとはことなり、上記2次元がほぼ直線的な関係にあることが明らかになった。その意味で、家族の人間関係は、その他の人間関係と成立の機制がややことなることが示唆されたが、「社会的参画」への欲求の充足が重要であることは他と異ならず、家族のあり方への今後の研究の方向が示唆されることにもなった。
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