われわれの研究において、Clynes(1977)の情動理論に基づくsentogram(手指によって装置に与えられる圧力の変化曲線)が喜びや悲しみなどの基本感情によって異なるパタ-ンを示すことが確認された。また、表情が示す感情のsentogramとそれを認知した被験者のsentogramは対応する傾向があることが示唆された。しかしながら、Clynesの手続きでは、数10回の反復測定や練習の必要性、試行間間隔が感情によって異なるなど問題点も多い。そこで非表情画と表情画を混在させて提示し、より要求特性を減じた状況でのsentogramを検討した。実験Iでは、表情画のもつ感情成分が弁別課題遂行中の被験者のsentographのボタンの押し方に表われるかどうかを確かめ(弁別課題)、また実験IIでは、画面の線画を見ているときの自分の気持ちをsentographで表出するように教示した(表出課題)。第1実験の提示刺激は、「怒り」「喜び」「悲しみ」「無感情」を表す表情画に加えて、非表情画として顔の輪郭内に「十字」と「楕円」を描いたものおよび、顔の「輪郭のみ」を用いた。いずれもコンピュ-タグラフィックスで作成し、14インチのモニタ-に提示した。被験者は提示された図形の輪郭の楕円内に何か描いてある場合にのみセントグラフのボタンを押すという簡単な弁別課題を行った。一つの線画の提示時間は4秒間で刺激間間隔は2〜4秒である。結果は、持続時間と圧力最大値にのみ有意差がみられた。符号検定の結果、「悲しみ」の持続時間は「十字」「喜び」よりも長く、「怒り」の圧力最大値は「十字」「無感情」「喜び」「悲しみ」より強いことがわかった。第2実験では、実験Iで使用したものから「輪郭のみ」を除いた6種の線画を被験者に提示し、見ているときの自分の気持ちをセントグラフで表出するように教示した。結果は、持続時間と圧力最大値にのみ有意差がみられた。
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