本研究の目的は、老年期における知能の維持と低下の様態を検討することにより、知能の加齢パターンおよび知能構造の変化を明らかにすることである。そこで、3年前に知能について調査を行った、小金井市に在住する70代の老人300人を対象として選び、昨年度、本年度の2年度にわたり、戸別訪問調査を行った。知能の測定には、WAIS成人知能検査を用い、老年期においては特に重要である記憶機能について詳しく調べるために、5つの下位検査からなる老人用記憶テストをあわせて行った。 本研究の対象となった300名の老人の内、実際に調査可能であったのは、220名であった。調査を行った220名の内、WAISフルスケールと記憶テストについて完全データがえられたのは、200名であった。残りの20名の内、6名については、WAIS短縮版と記憶テストの形でデータの利用が可能であった。 結果の分析にあたっては、WAISでは各下位検査の比較が用意となるよう、各下位検査の平均と分散が等しくなるよう基準化した評価点を用いた。記憶テストについては、粗点を用いた。統計解析としては、多変量分散分析と因子分析を行った。WAISのプロフィールの検討から、言語性知能は成人ノームと比較して同じかわずかに低い程度であるが、動作性知能では成人ノームよりも明らかに低く、従来いわれてきた知能の加齢パターンが示された。また、明らかな性差が認められたが、これは主として教育における性から生じていることが示された。3年間の変化については得点はわずかであるが上昇しており、知能が十分に維持されていることが示された。知能の因子構造については言語性知能、動作性知能 言語的記憶、図形的記憶の4因子が示され、これまでの我々の結果と一致した。知能構造は3年間で変化がなく、安定していることが示された。
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