研究概要 |
今日, サルの下部側頭葉連合野(IT野)の前半部(TE野)は視記憶中枢野で, 後半部(TEO野)は視形態知覚中枢野として知られている. 一方連合野は一般に機能可能性に富んだ領域で, 豊富な視経験や課題の過剰訓練を受けたサルは, IT野損傷後でも視学習障害を示さないという知見がある. 本研究の目的は, 解剖学的に独立し, 機能分化したTE野とTEO野が相互に機能代償を果しうるかどうかを神経行動学的破壊実験で明らかにすることである. この為, 視課題を豊富に経験したサルにTE野とTEO野の二段階組合せ追加摘除を施行し, 摘除効果の順序性, 秩序性について検討する. 本年度は, 被験体にマカクザル6頭を用い, これらのサルに改良型WGTAで図形弁別学習課題(視形態知覚課題)と同時的複式物体弁別学習課題(視連合記憶課題)を各々約1.000試行過剰訓練した. 訓練終了後, TE野(3頭), TEO野(2頭)及びIT野全域(TE野+TEO野, 1頭)の各両側性皮質摘除手術(一段階目)を施行した. 術後, 術前と同課題で保持テストを行い各摘除効果を調べた. その結果, 術前の課題の過剰訓練により全サルの学習の保持は長期に安定した. 術後では, TE野摘除サルは図形弁別課題及び連合記憶課題で障害を示し, 一方TEO野摘除サルは図形弁別課題でのみ重度な障害を示し, IT野全域摘除サルは両課題とも重篤な障害を示した. 本知見は, 術前の過剰訓練で保持が完全であってもIT野損傷により学習障害は発現することを示唆し, TE野は視認知(記憶)中枢野で, TEO野は視形態知覚中枢野であるとする従来の見解を更に強く支持するものであった. 来年度は過剰訓練しない群を新たに設け, 過剰訓練の有無により摘除効果に差異があるかどうか, 及び二段階目の組合せ追加摘除効果とを合せて検討して行きたい.
|