本研究では、まず地域移動に関する理論的研究に取り組み、従来の諸研究成果をレヴューした。そこでは、移動過程に関する豊富な研究に比較して、移動後の社会的プロセスに関する先行研究が少ないこと、また、生活者の現実の生活体験に根差した生き方や価値観といった、地域社会の壁にわけ入った「部分」から「全体」を眺めようとする視点がやや希薄であったこと、などが明らかにされた。 こうした理論的反省をふまえ、フィールド・ワーク等にもとづく実証的研究においては、できる限り詳細な移動者の生活史を収集し、その個別的分析を通して地域の変容や時代変化のなかで、社会移動の具体的様相を把握することに努めた。 まず、移動の起点として設定した青森県黒石市の地域社会構造の変化を、主として統計資料等より明らかにした。そこでは、津軽地方における同市の類型的位置づけと、その内部構成の特性に着目した。 次に、移動-定着に関わる組織として、黒石市市長室、青森県県人会、東京石黒会をとりあげた。それらの組織の変遷過程を生理、分析するとともに、そのなかから調査対象者の具体的な同定をおこなった。 最後に、生活市・ライフコース研究の手法を導入し、移動層(黒石→東京、黒石→東京→黒石または津軽地方)のインタヴュー調査をこころみた。 調査項目は移動理由、移動の社会的コンテクスト、移動先の地域社会への定着過程、移動前後のライフ・スタイルの変化等である。 そこでは、具体的な移動の事例に即したかたちで、移動期における個人的な時間の経過と「社会的」時間との係わり、ライフ・スタイルの変化、移動に関与する社会的ネットワークの種類や形成過程、移動者の故郷観・東京観などの一端を、明らかにすることができた。
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